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増資のおはなし

 オーナー会社の多い中小企業では、資本金の増資の必要性にかられるケースというのは多くありません。

これからスタートアップしていこうといった場合や、建設業の特定建設業許可や人材派遣業の許可を取得するといった場合はともかく、通常の取引や業務の中で、資本金を意識することはあまり無いのではないでしょうか。

しかしながら、先日その増資を検討したいというご相談を受けたので、今回はそのお話をしてみたいと思います。

増資の種類

実際に増資を行う場合には、大きく分けて有償増資と無償増資があります。

1 有償増資

新株発行等により、実際に払込を行って資本金を増やすものです。①株主割当増資、②第三者割当増資、③公募増資の3種類の方法があります。

①株主割当増資・・・既存の株主の持ち株割合に応じて新株を発行します。株主それぞれの持ち株数は増えますが、持ち株比率は増資前と変わらず、そのままとなります。

②第三者割当増資・・・特定の第三者に対して新株を割り当て、引き受けてもらう方法です。自社役員や従業員、その関係者や取引先の金融機関、企業などが出資者となるケースが多いです。

③公募増資・・・広く不特定多数の投資家に対して、新株引受の募集を行うものです。株式公開済みの上場企業が、資金調達を目的として行う方法です。

中小企業で有償増資を行うときには、①または②の方法になりますが、②第三者割当増資の場合、新株発行の単価を時価より低い有利発行や、逆に高い高額発行となっていれば課税関係が生じてくるので注意が必要です。

例えば、同族会社で父親が息子に事業承継させるべく、第三者割当増資をした際に有利発行をしたといったケースでは、贈与税が課されてしまうことになります。

(例)設立当初 1株あたり5万円 発行株数60株を出資 資本金300万円の会社で、息子が設立当初と同じ1株当たり5万円で140株を出資し、資本金を1,000万円とした。また、会社の業績が良かったため、増資時の1株当たりの評価額は100万円になっていた場合。

 増資前・・・父 60株 評価総額 6,000万円 1株当たりの評価額 100万円

 増資後・・・父 60株 息子 140株 合計200株

       評価総額 6,000万円+5万円×140株=6,700万円

       1株当たりの評価額 6,700万円÷200株=33.5万円

 父の評価額 33.5万円×60株=2,010万円 → 増資前より3,990 万円の減少

 息子の評価額 33.5万円×140株=4,690万円 → 払込額より3,990万円の増加

 したがって、父より息子へ3,990万円の贈与とみなされることになります。

2 無償増資

実際の払込はせず、会社の資本準備金や利益剰余金を資本金に振り替える方法です。出資者からの新たな出資を受け入れることなく、資本金を増やすことができます。

メリットとデメリット

1 メリット

①会社の信用度が高まります。新規に取引を始めるときに、決算書の提示を求められることがありますが、その際に資本金が多いと信用度が高いと判断され、新たな企業との取引における可能性が拡がります。

②有償増資によって資金調達をした場合には、返済不要なので資金繰りが楽になり、資金力が高まります。

③また有償増資の場合には、貸借対照表における純資産が増加するので、自己資本比率が高まり、金融機関から融資を受ける際にも有利になります。

2 デメリット

①第三者割当増資の場合などで株式の持ち分割合が変わった場合、もともとはオーナー会社であっても新株主の会社への影響力が強くなったことで、社長の意思が通りにくくなる可能性があります。そのため持ち株の割り当て比率には充分な考慮が必要です。

②新たな株主が加わってその株主に問題があると後でわかった場合に、会社側の都合で変更するのは非常に困難です。そのリスクを十分把握しておく必要があります。

③税金が高くなることがあります。例えば法人住民税(都道府県税、市町村民税)の均等割りは、資本金1,000万円を超えると高くなります。また中小企業であればいくつかの税制上の優遇措置を受けることができますが、資本金の額によって受けられなくなるものもあります。例えば機械等を取得した場合の特別償却は資本金1億円以下の企業が対象ですが、その場合の税額特別控除は資本金3,000万円以下でないと選択できません。

④増資を行った場合には、法務局において登記変更手続きが必要になるので、その際の登録免許税といった費用がかかります。また、手続きを司法書士に依頼した場合にはその手数料も必要となります。

資本金を増やすということは、会社への信用が高まり、取引拡大や融資において有利になるといったメリットがあると同時に、優遇税制が適用されなくなったり、経営者の意思決定に支障が出るといったデメリットの可能性もあります。

それぞれのメリットとデメリットを充分に比較検討したうえで、増資についての選択をするようにしてください。

後藤 百合子

〜税金についてのご相談なら三重県鈴鹿市の税理士法人フラッツ・コンサルティングまで〜

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