びっくりするほど短い梅雨が終わったかと思ったら、今度は連日の猛暑。
体調管理にもひと苦労です。夏本番はまだまだこれからだというのに、この先が思いやられますね。
さて、今回は事業承継税制(法人版)のお話をしようと思います。
事業承継税制とは?
中小企業は経営者が株主を兼ねていることが多く、後継者が事業を引き継ぐ際には、経営権だけではなくその自社株式も引き継ぐことになります。
さらに、親族内での事業承継の場合、多くは相続または生前贈与によって引き継ぐこととなり、経営が順調な企業であれば、多額の相続税や贈与税が課せられることがあります。
そういった相続税・贈与税の問題は、円滑な事業承継を困難にしていました。
そこで生まれたのが「事業承継税制」です。
自社株式を先代経営者から贈与・相続によって取得した際、経営承継円滑法による都道府県知事の認定を受けると、贈与税・相続税が猶予または免除されるという制度です。
そしてこの事業承継税制は、2018年度税制改正において大きく改正され、従来の一般措置とは別に、2027年12月31日まで限定の特例措置が設けられました。要件が緩和されたため、より利用しやすい内容となっています。
事業承継税制(特例)を活用するための要件
事業承継税制には下記の通り、いくつかの要件が定められています。
1.先代経営者について
●会社の代表権を有していたこと。
●贈与・相続開始の直前に現経営者親族などで総議決権の過半数を保有しており、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと。
●贈与の場合は、贈与時に代表者を退任していること。
2.後継者について
●贈与・相続開始時に、後継者と後継者親族などで総議決権数の過半数を保有する状態になること
●後継者が1人の場合は、後継者と後継者親族などの中で最も多くの議決権を保有することになること。
●後継者が2人または3人なら、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、後継者と後継者親族などの中で最も多くの議決権数を保有することになること。
●贈与の場合は、贈与時に18歳以上で、贈与の直前で3年以上役員であり、代表者であること。
●相続の場合は、相続開始の直前に役員であり、相続開始から5か月後までに代表者となること
3. 法人について
●中小企業者であること
●従業員が1人以上
●上場会社、風俗営業会社ではないこと
●資産管理会社等に該当しないこと
4.事業承継後について
●5年間・・・後継者が会社の代表者で筆頭株主
後継者が猶予対象株式を継続保有
雇用の8割以上を5年間平均で維持(維持できない場合も認定機関の指導や助言を受けた上で、その意見が記載されている報告書を提出すればOK)
●5年経過後・・・後継者が猶予対象株式を継続保有
手続きの流れ
1.特例承継計画の提出・・・2024年3月31日まで
2.贈与・相続等の実施・・・2027年12月31日まで
3.贈与の場合
●贈与年の翌年1月15日までに都道府県に事業承継税制の認定申請を提出
●審査後、都道府県から認定書が交付
●税務署に贈与年の翌年2月1日から3月15日までの間に、認定書の写しを添付して申告書等を提出
●納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供(特例を受ける非上場株式等のすべてを担保提供すれば、見合う担保とみなされる)
4.相続の場合
●相続開始後、8か月目までに都道府県に事業承継税制の認定申請を提出
●審査後、都道府県から認定書が交付
●税務署に相続開始があったことを知った日(通常は先代経営者が死亡した日)の翌日から10ヶ月以内に、認定書の写しを添付して申告書等を提出
●担保については、贈与の場合と同様
5.都道府県に「年次報告書」を提出・・・年1回 申告期限後5年間
6.税務署に「継続届出書」を提出・・・申告期限後5年間は年1回 その後は3年に1回
注意するべき点
申告後も引き続きこの制度の適用を受けた非上場株式等を保有すること等により、納税の猶予は継続されますが、納税猶予期間中に一定の取り消し事由に該当すれば、免除されている贈与税または相続税、および利子税を納付しなければならなくなります。
その代表的なケースは以下の通りです。
●この制度の適用を受けた非上場株式等の一部を譲渡等した場合(免除対象贈与※を除く)
●後継者が会社の代表でなくなった場合(精神障害や身体障害、要介護などやむを得ない状況を除く)
●会社が資産管理会社になった場合(一定の要件を満たす会社を除く)
●継続届出書及び添付書類を提出期限までに提出しなかった場合(やむを得ない事情を除く)
※免除対象贈与・・・納税猶予を受けている後継者が、株式等をさらに次の後継者に贈与し、その後継者が納税猶予を受ける場合の贈与
他にも取り消し事由は贈与・相続ともにまだありますので、該当することのないように注意が必要です。
一方、猶予されている贈与税・相続税が、免除届出書・免除申請書を提出することにより、全部、または一部が免除されるケースもあります。
1.後継者が死亡した場合
2.5年経過前に、やむを得ない理由により会社の代表権をなくし、その後免除対象贈与を行った場合
3.5年経過後に免除対象贈与を行った場合
4.5年経過後に、破産手続き開始の決定や、事業の継続が困難な一定の事由が生じ会社を譲渡・解散した場合
なお、贈与税の猶予を受けている場合に、先代経営者が死亡したときは、贈与税の免除を受けて相続税の猶予に切り替えることができます。
詳しくは国税庁、中小企業庁のホームページをご覧ください。
国税庁:事業承継特集
中小企業庁:事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)について
事業承継税制は上手に活用できれば非常に大きなメリットがありますが、内容が複雑で注意点も多い制度です。
ですから、活用をご検討の際には専門家のサポートを受けることをお勧めします。
後藤 百合子
〜事業承継のご相談なら三重県鈴鹿市の税理士法人フラッツ・コンサルティングまで〜